■
「ほのちゃんはいつも嘘をつく。」
言われるまで気がつかなかったけれど、そうかもしれない。
私は嘘を毛嫌いするわりに、自分はよく嘘をつくかもしれない。
私が嘘を毛嫌いするのは、父親の嘘から受けたダメージが、当時の私にはあまりに大きすぎたからだと思う。
「汚いよね。」
電話越しに、震える声で、初めて父親に反抗的な態度をとった。
「世の中綺麗なことばかりじゃないからね。」
不倫をした父親から返ってきた言葉。
裏切ったり裏切られたり、情緒的な繋がりのない関係が存在するこの世界で私は生かされている。
騙された人を笑うために嘘をついているわけじゃない。保身のために嘘をついている。だけどそんなのはみんな同じで、私だって十分に汚かった。
自分が本当に思っていることを否定されたくなくて、これ以上馬鹿にされたくなくて、傷つきたくなくて、損をしたくなくて、私は嘘をつく。
「自分の都合のいいように」というのはこういうところなんだろうな。
傷つくことを恐れずに、自分の気持ちを素直に表出している人は立派だと思う。その人達に対して、私は卑怯だと思う。
卑怯だと思うと同時に、自分の気持ちを素直に表出できる環境があったこと、受け止めてくれる人がいたことを羨ましいとも思う。あんな場所にいた私に、同じことを求めないでくれと。
自分が本当に思っていることを、父親の前で話したことがない。怖くて話せなかった。正しいとされるであろうことしか言えなかった。そのうちにいつの間にか自分が何を感じているのかわからなくなってしまったらしい。
それでも周囲の人からしたら嘘は嘘でしかなく、信頼をなくしていく。
言うことが変わるのは、自分の考えや気持ちが変化しているからだと思っていたけれど、自分はこう考えてこう感じていると思ったことを言ってみても、本当に自分が考えていること、感じていることがわからないから、やっぱりこうかもしれないところころ変わっていっているのかもしれない。
これもまた周囲の人からの信頼をなくしていく。